『タレンタイム 〜優しい歌』

 仕事が立て込んでいて中々自由時間もままならなかったが、少しお休みが取れたので、いざ劇場へ。

休みに観たのはヤスミンの遺作となった『タレンタイム 〜優しい歌』。

 まだ51歳という若さで亡くなったヤスミン・アフマド監督の人柄が伝わるような青春映画の傑作。

いつまでもこの世界に浸っていたいと思わせる幸福感に包まれる。

 多民族国家で言語も複数が混在するマレーシア。

コミュニケーション上、伝えたくとも伝わらないもどかしさを感じたことは誰しも経験があるのではないか。

些細なことで本心が伝わらず、あらぬ方向に進んで大問題に発展することもある我々の日常。

 高校の音楽コンテスト『タレンタイム』(マレーシア英語で学生の芸能コンテストのことらしい)の発表会を縦軸に、係わる様々な人々が織りなす恋愛や友情ドラマを横軸として魅力たっぷりに描き出す。

マレーシア社会をみせながら個々のキャラクターを掘り下げる巧みさ。

多民族国家を思わせるマレー系、インド系、中国系とそれぞれを代表するキャスティングも的確。演奏スタイルも三者三様が物語る。

 伝えたいのに伝わりにくい気持ちを歌詞にしたためているのもいいし、深刻な問題を抱えながらもユーモラスな瞬間が救っている。

監督はチャップリンの『街の灯』に大きな影響を受けたそうだが、悲劇と喜劇が表裏一体な点にそれを感じた。

車のエンブレムだけで、その人物の社会的背景などを感じさせるのは上手い見せ方だと素直に思う。

 移民問題や宗教・人種問題が取りざたされる昨今だけに甘酸っぱい青春映画の向こうに透ける多様性社会の寛容さを描いているのも見事。

これまで日本では映画祭などでしか見られなかった本作が一般公開された意義は小さくないだろう。