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上品な貧乏 又吉直樹

 又吉直樹のエッセイが朝日新聞の日曜版に連載しているけれども、これが実に素晴らしい。様々な場所に行ってはそこから自身の回想を交えながらその場所の感想を述べるのだが、基本的に又吉直樹の幼い頃の貧乏な話がメインとなる。普通だったら悲しげだったり卑屈になったりするところがそういった暗さがまったくなくて貧乏だけれども、仲が良い家族の肖像の描写がユニークでかつ暖かい郷愁に溢れている。

 つまり読んでいて上品なのが判るのだ。貧困な話が上品というのは一見矛盾しているように思えるが、なんのなんの。トランプ大統領のように大金持ちなのに下品な様々な部分からにじみ出ているように、貧困な話であっても抑制が効いたユーモラスな語り口が実に上品なのである。かつて住んでいて今は空き家になっていた文化住宅を何度も観にいき、最初は他人が住むのに拒否感があったけれども、空き家が何年も続くうちに「誰か住んでくれ」と思うようになったところなど哀しくて笑えてしまう。

 こういった上品さというのはおそらく又吉直樹のセンスであり、それを支える圧倒的な知性が文書に現れているのが判るせいであろう。

 考えてみたら例えば同じように芸人があがく自伝的な小説として松野大介の『芸人失格』とかユウキロックの『芸人迷子』などがあるが、これらの作品では作者の奥底を露呈するある意味情熱的ではあるけれどもやはりそれゆえに卑屈さや妬み、そねみなどが現れてしまい、それゆえ下品な雰囲気が醸し出されるのである。

 だからこそ、芸人のそういった感情を小説にしながらも、一歩離れた視点から暖かく見つめ、かつ巧みに知性とユーモアと達者な文章で彼らの愚かでしかし情熱に満ちた葛藤を現した『火花』が芥川賞を貰ったのは納得がいくのである。